遺産整理の前に必ずやる二つの準備と知っておくべき4個のこと
大切な人の死は、とても悲しいものです。
しかしながら、相続手続きは悲しみが癒えるのを待ってはくれません。項目によって、期限が定められているためです。
また、亡くなられた方の遺産整理をしっかりと行うことは、その方が残した生き様を受け継いでいく、いわば供養にも繋がります。そのためにも、早めにしっかり準備をすることが大切です。この準備で何をするべきか、ポイントを抑えるだけで、期限内につつがなく終わらせることに繋がります。
この記事では、相続に関する手続きや期限、納税など、遺産整理について解説するとともに、遺産整理の前にご自身で行う準備についてご紹介いたします。
1. 遺産整理とは?
遺産整理とは、故人の遺産を、法的に処理することを指します。
ここで言う遺産とは、預貯金や株式、所有していた貴金属や車・不動産などすぐに「遺産」として思いつくものはもちろん、債権や担保物権といった故人の権利、そして借金などと言った債務も含みます。また、生命保険に加入していた場合は、その請求も行います。
そして「法的な処理」とは、具体的には遺産の相続あるいは放棄の手続きのことです。また、故人が生前加入していたサービスがあれば、その解約や名義変更手続きも行います。
詳細は後述しますが、相続するにせよ放棄するにせよ、相続する権利を有する方は相続人、故人を被相続人と呼び、被相続人が亡くなりご自身が相続人であることを知ったその日から「相続開始」となり、あらゆる手続きに期限が発生することを覚えておきましょう。
これら遺産整理は非常に煩雑ですし、時間もかかります。そのため相続人に代わって手続きを代行する遺産整理業務というサービスが存在しており、士業(司法書士や行政書士、税理士、弁護士など)の有資格者や信託銀行・普通銀行などが請け負います。とは言え例えサービスを利用したとしても、ご自身で用意しなくてはならないもの・調べなくてはならないことは結構たくさん。また、全てが終了するまでには数か月単位がかかります。そのため事前にしっかり「行うべきこと」を把握し、早めに準備を始めましょう。
2. 相続できる遺産・できない遺産がある
基本的に相続人は、故人のあらゆる遺産を相続します。それは資産もあれば債務もあります。ただし、中には相続できない・相続する必要のない類の遺産もあります。
まず、相続できるものとしては、前述の通り預貯金や不動産、動産、債券類など経済的な価値のあるもの。そして借金や未払金、買掛金などと言った債務。また、著作権や占有権、所有権、ゴルフ会員権、担保物権(抵当権など)と言った、権利関係も挙げられます。ちなみにここでいう債務には、連帯保証債務(連帯保証人になること)も含まれるので、ご注意ください。連帯保証債務は放棄できないのが原則ですので、そのまま相続人が相続することとなります。
一方相続できないものは、「被相続人だけが持てる権利(一身専属権)」です。性質上、被相続人本人でないと要件を満たせないような財産は、被相続人でなければ認められません。
具体的には受取人が指定されている生命保険(ただし受取人が被相続人の場合は相続財産に)。遺族給付や死亡退職金、扶養請求権や親権などと言った、被相続人でなければ権利の享受が認められない財産を指します。また、意外に思うかもしれませんが、墓石や墓地、位牌に仏具などの祭祀財産も相続財産対象とはなりません。ここで言う「相続財産対象」は課税についてです。祭祀財産はそのまま相続人が引き継ぐことができますが、相続人にとっては大切なもの・換金しづらいものとみなされるため、課税対象で言うところの相続財産対象にはならないのです。もし債務が莫大で相続放棄する場合でも、祭祀財産は問題なく引き継ぐことが可能です。
この他にも、かなり判断が難しい相続できるもの・できないものが多数存在します。
例えばナナコやTポイントなどと言った買い物ポイントは相続不可なことがほとんどですが、マイレージは相続できます。また、被相続人が慰謝料請求権を有していた場合、これを引き継ぐことができるケースもあります。
判断がつきかねる場合は、銀行や士業など、遺産整理のノウハウに長けた専門家に一度相談してみましょう。
3. 遺産整理の流れと自分で行う二つの準備
次に、遺産整理の流れと、ご自身で行う二つの準備をご紹介いたします。
① 遺産整理の流れ
遺産整理の一連の流れをご紹介いたします。なお、あくまで流れであり、必ずしもこの順番通りに行われるわけではありません。ただし手続きの期限は絶対になり、それを過ぎると附帯税の対象になりますので、厳守しましょう。
相続開始・遺言書の確認
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保険金の請求
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年金や健康保険の請求および切り替え
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相続人の確認
・・・配偶者・子どもなど、相続の資格を持つ人は何人いるか調査します。なお、複数の相続人で遺産を相続することを共同相続と呼びます。
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遺産調査
・・・相続財産の全てを確認・把握します。
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遺産評価
・・・相続財産を把握したら、それが客観的に見ていくらになるのか・どのくらいの資産なのかを査定・評価してもらいます。ここの評価額に基づいて、相続財産の価額も決まってきます。
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遺産分割協議の調整
・・・相続人が複数いる場合、相続人同士でどのように遺産分割を行うか、協議が必要になってきます。協議が完了したら「遺産分割協議書」に実印を押しますが、もしまとまらない場合は裁判所で遺産分割審判を行います。
なお、裁判を行うにせよ行わないにせよ、相続には「法定相続」というものが存在します。法定相続とは民法で定められている相続人と、それぞれの相続人の遺産取得割合のことです。
法定相続人は配偶者・第一順位・第二順位・第三順位と四つに区分されており、この並び順が優先度の高さとなります。それぞれで遺産の取得割合も異なります。ただし遺言があった場合は、法定相続人以外の人物が相続人となるケースもあります。
また、取得割合はあくまで「割合」であるため、何をどのように相続するかはこちらの遺産分割協議でまとめることとなります。
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相続の放棄・限定承認(!注意!相続開始から3か月以内)
・・・限定承認については次項で解説します。
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被相続人の所得税申告・納付(!注意!相続開始から4か月以内)
・・・準確定申告のこと。
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遺産の分割手続き・遺産名義変更
・・・不動産登記などと言った遺産の名義を変更したり、金融資産の換金を行ったりします。また、債務をそのまま引き継ぐ場合は、ローンや返済を開始します。
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相続税の申告・納付(!注意!相続開始から10か月以内)
・・・この時、延滞・物納の申請も行うことができます。なお、相続税には基礎控除額が存在し、これを超えない場合の納税義務はありませんが、申告は必要となります。
② 遺産整理の前にやるべき二つの準備
遺産整理の前に相続人のご自身が必ず行わなくてはならない二つの準備があります。これがなくては正確な遺産の把握ができませんし、正確な確定申告もできません。下手をしたら後々相続人同士でもめる、または気づいていなかった遺産があった!なんてことも。
冒頭でもお伝えしたように、早めに・きっちり準備を行いましょう。
準備のうちの一つは、相続人の確認です。配偶者や子ども・血族など、法定相続人が何人いるかを、戸籍を収集して調べます。
そしてもう一つの準備は遺産調査です。被相続人の相続財産の全てを確認することを指します。なお、ここで確認された遺産は「財産目録」として司法書士や行政書士に作成してもらい、以後全ての協議・手続きの基準となります。
この遺産調査が最も大変で、最も重要です。まず、正確な財産目録がないと、相続税の申告ができません。
前述の通り、相続税は相続開始から10か月以内に税務署に申告し、納めなくてはなりません。
相続税は申告納税制度のため、相続人ご自身が遺産調査をし、ご自身で相続税を計算して申告・納税しなくてはなりません。もちろん計算は税理士にお願いすることもあるでしょうが、遺産の全貌は相続人にしかわからないので、正しく把握することが求められます。
もし期限内に申告しなかった場合はそこに無申告加算税、納税が遅れると延滞税、少なく申告すると過少申告加算税など、追徴課税が発生してしまいます。理不尽なようにも思いますが、国民は正しく納税を申告する義務があるため、いかに遺産調査が大切かおわかりいただけるでしょう。
でも、この遺産調査、どこから手を付けていいかわかりづらいですよね。
実は、ある個人の所有する財産を一括で管理するデータベースのようなものはありません。例えば最も調査が大変な不動産。所有している土地がわかっていれば登記を取ったり所在を確認したりすることは容易ですが、別の場所にさらに土地を有していたとしても、一つの情報に紐づいているわけではありません。
そのため、遺産調査をするとなったら、「徹底的」に行うことが求められます。
財産の形はまちまちですので一概には言えませんが、確認するべき点・確認したら行うべき準備を次項でまとめました。