「青い宝石」と聞くと、まずサファイアが思い浮かぶのではないでしょうか。
サファイアは「ダイヤモンド」「エメラルド」「ルビー」「アレキサンドライト」と合わせて五大宝石に名を連ねる有名な宝石で、漫画のキャラクターやゲームの名前にも採用されるように、大変よく知られていますね。
そんなサファイアですが、いつから人々に愛され、どのような特徴を持つのかをご存知でしょうか?
サファイアは美しさそのものも大変魅力的ですが、鉱物としての特性もまたサファイアらしさを感じられる大切な側面です。
この記事では、知っているようで知らないサファイアの魅力や歴史、特徴について解説したします。
1.サファイアとは?
① DATA
鉱物名:コランダム(鋼玉)
和名:碧玉(へきぎょく)・青玉(せいぎょく)
色:青・オレンジなど赤色以外
モース硬度:9
劈開:なし
原産国:タイ、ミャンマー、カシミール地方、スリランカ、マダガスカル、オーストラリア、中国、カンボジアなど
宝石言葉:慈愛、誠実、貞操、高潔など
誕生石:9月
② 概要
言わずと知れた青い宝石・サファイア。鉄、チタン、クロム、銅、マグネシウムなど微量の元素を含む酸化アルミニウムの結晶で構成される鉱物「コランダム」の一種です。
コランダムの純粋な結晶は無色透明ですが、めったに見かけません。通常は結晶に組み込まれる不純物イオンによって色味を帯びることとなります。この不純物としてクロムを含有して赤く色づいたものがルビーです。そして、不純物に鉄やチタンを含有し、濃いネイビーや青など濃い赤色以外に色づいた石がサファイアとなります。つまり、ルビーとサファイアはただ色が異なるだけで、元の鉱物は実は同一です。
また、サファイア=青色と言うイメージが定着していますが、「濃い赤色以外に色づいた石」と表現した通り、黄色や紫色、緑色などもコランダムであればサファイアと呼びます。ピンクなども一見するとルビーにも見える個体でも、濃い赤色意外であればサファイアに属することが多いです。
現在原産地は比較的多く、インドやスリランカをはじめとしたアジアや、アフリカ、オーストラリアなど幅広く採掘が行われています。また、産地によって色の濃淡が異なり、価値が上下することもありますが、比較的どこでも上質な個体が出てきやすい石でもあります。
ただし、産地ごとに極上の色を持ったサファイアが発見されている事実もあり、そういった個体は特別に名前が付けられます。例えばインド半島北部のカシミール地方で採れたブルーサファイヤの中には矢車草の青に似ている事から「コーンフラワーブルー」と呼ばれるものがあります。何とも形容しがたい、柔らかく香り立ちそうなとても美しいブルーです。また、ミャンマー産等の深みある上質な青色は「ロイヤルブルー」と呼ばれます。どちら市場価値はきわめて高くなりますが、カシミール産のコーンフラワーサファイアは幻のサファイアと言われるほど希少で、現在では採掘も行われておらず、世界的に見ても大変貴重なサファイアです。コーンフラワーブルーもロイヤルブルーも、状態にもよりますが1カラットあたり数十万円~数百万単位の相場を描くことも珍しくありません。
また、あまり一般的ではありませんが、スリランカ産の中でも、「カワセミのブルー」と呼ばれる、淡く他産地に比べて透明度の高いサファイアが存在します。
なお、ロイヤルブルーについて、日本の鑑別書ではミャンマー産に限って一定の色合いに評価された個体だけがロイヤルブルーと記載されますが、海外では産地は問題になっていないケースがあります。そのため色だけを判断してロイヤルブルーとしている、といった差異が見られ、また、海外の鑑別機関では色の判断が曖昧な為、上質ではないブルーでもロイヤルブルーと表記されていることもあるので、産地や色にこだわる方は購入時には注意しましょう。
色以外のサファイアの特徴としては、硬度がきわめて高いことです。
ダイヤモンドがモース硬度10、モアッサナイトが9.5、次いでサファイアが9となり、宝石の中で三番目に硬い、と言われています。
劈開がないためダイヤモンドのような一定方向の力に対するもろさもなく、日常使いに適した宝石の典型です。
ちなみに人工サファイアも非常によく出回っています。
製法が開発されたのも1902年と比較的早く、容易に製造することができるためです。人工として工業的に生産された単結晶コランダムをサファイアガラスと呼ぶこともありますが、サファイアは結晶であるためガラスの仲間ではありません。
硬度の高さから、人工サファイアは腕時計の風防や軸受け(ベアリング)などにも用いられる他、絶縁性や熱伝導率の高さから、半導体基板などとしても注目度を浴びています。
③ 歴史
サファイアの語源は「あお」を意味するラテン語の「sapphirus(サッピルス)」、ギリシャ語の「sappheiros(サピロス)」からきている、と言われています。一部の言語学者からはサンスクリット語で「親愛なる土星」という意味に由来する、という説も出ています。
いずれにせよ非常に古くからある言葉で、旧約聖書・新約聖書ともにこの語が見られます。ただ、もともとは青い石をサファイアと総称していたようです。現在のコランダム由来の青石がサファイアと呼ばれたのは、中世のヨーロッパ宝石職人たちによるものです。
コランダム自体が古くから宝石として愛されており、東洋から古代ヨーロッパに伝わったとみられています。
スリランカがサファイア誕生の地とされており、同地域に多いヒンズー教徒たちの間では、サファイアは不吉な石と言われていました。サファイアは土星の象徴のような扱いであったためです(古代中国・インドなどでは土星を凶星としていたため)。一方でやはりスリランカに多い仏教徒にとっては宝石の中でも特に貴重なものに位置付けていました。そのためキリスト教では、中世あたりから司教が叙任(聖職者の命を受けること)の証としてサファイアのセッティングされた指輪を人差し指にはめるようになります。
ちなみに欧米では結婚の周年記念にその年にちなんだプレゼントを夫婦間で贈り合う風習がありますが、45周年はサファイア婚です。また、65周年記念をサファイアジュビリーと位置付けているなど、いかにサファイアが歴史的に私たちの生活に根付いてきたかがおわかりいただけるでしょう。
2. サファイアのジュエリーとしての特徴と魅力
サファイアの特徴であり、何よりの魅力は色にあります。一般的に、色味が強く透明度の高い個体が好まれますが、海の青とも空の青とも異なる宝石「サファイア」ならではの美しさは、本当に目を奪われてしまうような魅力を感じます。
これに加えてもう一つの魅力として、硬度の高さが挙げられます。宝石の中には美しく人々の目を惹きつけるポテンシャルはあるものの、硬度がいちじるしく低く、普段使いに向かないものも少なくありません。
そこへきてサファイアの硬度はダイヤモンドに次ぐものがあります。他の宝石とぶつかっても傷ついたり欠けたりすることがあまりありませんし、日常的に傷を気にしすぎず使うことができますね。
なお、硬度が高いということはカットも容易ということです。ダイヤモンドなどに代表されるカットは石そのものの輝きやプロポーションの美しさを高めてくれるため、やはり施してこそサファイアの魅力も上手に引き出されます。
さらに言うと、お手入れのしやすさもジュエリーとしての大切な魅力です。水に強いので汚れが目立つ場合は温かい石鹸水でご自身で直接洗うことが可能です。超音波洗浄機やスチームクリーナーも、後述する処理方法にもよりますが、一般的なエンハンスメントであれば使って問題ありません。
ただし、洗浄後はしっかりと水分をふき取ること、自然乾燥させることが求められます。
3. ファンシーカラーなど稀少価値の高いサファイアについて知ろう
前述の通り、サファイアは様々な色合いを持ちます。
ルビーと濃紺~青紫以外のサファイアを、特にファンシーカラーサファイアと呼び、通常のブルーよりも評価が高くなる場合があります。
最も有名なファンシーカラーはピンクサファイアです。ルビーとは全く異なる鮮やかで華やぎのある薄紅が特徴で、透明度が高いものほど美しくその色味を映えさせます。
紫のバイオレットサファイアも有名ですね。高貴な紫が光輝いており、世界中のセレブリティから高い需要を誇ります。なお、バイオレットサファイアは、紫系の宝石の中では最も価値が高いと言われています。
黄色味が強いものはイエローサファイアと呼ばれます。鮮やかな黄色や黄緑に近い石もありますが、褐色~オレンジ系統の深い黄色を帯びたイエローサファイアを特にゴールデンサファイアと呼びます。
このように様々なファンシーカラーサファイアが存在しますが、中でも「パパラチア(パパラチャ)サファイア」は特別。ピンクとオレンジの間をとったようなの独特の色合いをしており、その産出量の少なさから「幻の宝石」「キングオブサファイア」とも称されてきました。なお、パパラチアはシンハラ語「Padparadscha」が語源で、「蓮の花」「蓮の花のつぼみ」を指しています。ちなみにシンハラ語はスリランカに住むシンハラ人の言葉である通り、スリランカで産出が何例か確認されています。
色以外にも珍しく稀少価値が高いサファイアも存在します。それは、スターサファイアです。
これはサファイア内部に二酸化チタンであるルチルが針状にインクルージョンとして内包された結果起こる現象で、光を当てると六条の光をサファイア上で放つ、きわめて美しくも壮麗な個体です。もともとコランダムはアステリズムと呼ばれる、星彩効果が確認できますが、キレイに光を放射させるようにインクルージョンが入らなければ、スターサファイアは完成しません。なお、このスターサファイアを存分に楽しむには、カボションカットであることが求められます。
さらに、アレキサンドライトのように、光源によって色が異なるカラーチェンジサファイアも存在します。アレキサンドライトほどの変化は見られませんが、こちらも稀少価値の高さから高値で取引されてきました。
4.どんなサファイアが高い評価なの?
サファイアはどのような個体が高い評価がされるのでしょうか。購入の際の、参考にしてみてくださいね。
① 色
サファイアの魅力・色。青であってもそれ以外のファンシーカラーであっても、ほとんどのサファイアの価値は「色味の強さ」「色調」で決定づけられます。
一般的には色味が強く、一色が濃い色の方が好まれますが、濃すぎても評価が下がってしまいます。
鮮やかで色濃く輝きを放つサファイアが良いサファイアとなります。
② カラット
大きなサファイアは比較的よく出土しますが、グレードの高いもの・稀少性の高いファンシーカラーなどは3カラット程を超えるととたんに高額となります。
当店グリーバーでも、Sランクのサファイアの買取額は0.5カラットで10,000円、1カラットで35,000円、2カラットで140,000円、3カラットで350,000円などと、高値でお買取りさせていただいております。
これがパパラチアサファイアやカラーチェンジサファイアともなると、1カラットを超えるだけでかなりの高額査定が見込まれます。
③ クラリティ
クラリティは透明度を指します。クラックや気泡などといったインクルージョンが入っておらず、透明度の高いものほど価値が高いサファイアとなります。
サファイアはコランダムに含まれた不純イオンで色味を出している特性上、どうしてもインクルージョンが入ってしまうこと。またインクルージョンの中にはスターサファイアといった効果を発揮するものもあることから、一概に悪とは言い切れません。
しかしながらクラリティの高いサファイアは非常に価値があるものとされています。
④ カットとプロポーション
サファイアはダイヤモンドに次ぐ硬度を有しているため、ファセット面の多い高度なカッティング技術が施されます。
こういったカットのやり方、そしてプロポーションの美しさで評価するところは、やはりダイヤモンドと同じように高い神話性を持ちますね。
⑤ 処理
サファイアは市場に流通しているものもほとんどが何等かの処理がなされています。
一つには、エンハンスメントと呼ばれる加熱処理です。
これは人為的な加熱によって、コランダムが本来持っている鮮やかな色彩を強めるために行われる処置です。天然のサファイアが持っている酸化チタンを温めて溶かし、本来放つべき色に調整する目的があります。ジュエリーにセッティングされているサファイアの95%以上がこの処理が施されています。
エンハンスメント(加熱)自体はなんら問題がありません。日本国内では立派な天然宝石として流通しています。しかしながら加熱処理されていないにもかかわらず美しい個体は、非加熱(ノーヒート)サファイアとして市場価値が高い為、買取額がアップします。
もう一つの処理はトリートメントと呼ばれる処理で、これが行われているとサファイアの価値が著しく落ちてしまいます。
トリートメントにはいくつか種類がありますが、サファイアで多く行われているのは、外部拡散加熱処理か充填処理です。同じ加熱処理ですがトリートメントと言った場合は人工着色にあたります。また、充填は宝石にガラスや樹脂、ワックスやオイルなどを後から充填させ、見た目の美しさを引き出すための処理です。
どちらの処理が行われているにせよ、現在の鑑別書にはしっかり記載されることとなりますが、昔の鑑別書や、現在でも信用度の低い鑑別機関ではこれらの処理を判別するには高度な技術が必要な為、記載さていない場合もあります。
その為これからご購入になる方は事前に確認し、鑑別書はしっかりと所有しておきましょう。
4. まとめ
とても有名だけど、実は意外と知らないことも多い。そんなサファイアの魅力についてご紹介いたしました。
サファイアとはルビーと同類のコランダムの一種で、不純イオンである鉄やイオンを含有することで濃い赤以外の色味を帯びたこと。原産国は多いものの、色味や稀少性でその価格は大きく異なること。特にパパラチアサファイアやゴールデンサファイアの稀少性はきわめて高いことなどをお伝えできたでしょうか。
とても有名で、とても美しくて、とても身近なサファイア。意外な顔を知ると、より欲しくなってしまうかもしれません。