誕生月ごとに決まった宝石が割り振られる「誕生石」。
自分自身の生まれ月の宝石を身に着けるのは、どこか特別な気持ちになりますよね。
この誕生石は63年、その顔ぶれが変わっていませんでした。
しかしながら我が国の全国宝石卸商協同組合は2021年12月、誕生石の改定を公表しました。これによって新たに10石の美しき石たちが追加されるに至っています。
本稿では、最新版の誕生石一覧表をご紹介するとともに、追加された10の誕生石を解説致します。
1.【最新版】誕生石一覧表
2021年12月20日、全国宝石卸商協同組合によって、誕生石が63年ぶりに改定されました。
最新版となった誕生石一覧は、下記の通りです。なお、既存の誕生石は19石で、追加は10石でした。2021年追加分は下記一覧表にて(2021年)と表記しております。
1月 ガーネット
2月 アメシスト クリソベリル・キャッツアイ(2021年)
3月 アクアマリン 珊瑚 ブラッドストーン(2021年) アイオライト(2021年)
4月 ダイヤモンド モルガナイト(2021年)
5月 エメラルド 翡翠(ヒスイ)
6月 真珠(パール) ムーンストーン アレキサンドライト(2021年)
7月 ルビー スフェーン(2021年)
8月 ペリドット サードオニックス スピネル(2021年)
9月 サファイア クンツァイト(2021年)
10月 オパール トルマリン
11月 トパーズ シトリン
12月 ターコイズ ラピスラズリ タンザナイト(2021年) ジルコン(2021年)
2.なぜ?63年ぶりの誕生石改定
なぜ63年ぶりに誕生石改定に、全国宝石卸商協同組合は踏み切ったのでしょうか。
そもそもわが国・そして各国で誕生石とされるものは、1950年代にアメリカ合衆国の宝石商によって整理され、改定されたものに系譜を引きます。
誕生正規自体の歴史は、さらに古くまで遡ります。
『旧約聖書』の出エジプト記で記述されるイスラエル祭司長・アロンが胸に着けていた12の宝石がだとか、『新約聖書』のヨハネの黙示録にある神殿の土台に使われていた12の宝石だとか、由来に関しては諸説あります。
しかしながら16世紀~18世紀になるとポーランドで誕生石の概念が根付き始め、そのリストが作成されていたことがわかっています。
この近世のリストはトラディショナルな誕生石として位置付けられており、より現代の感性を反映した誕生石リストが生み出されたのはさらに時代を下って20世紀です。アメリカ合衆国の鉱物学者ジョージ・フレデリック・クンツ氏が現代的な誕生石を整理し、1912年、同国の宝石商組合によって広く知られるようになりました。
日本では1958年、このアメリカの誕生石リストをもとに、全国宝石卸商協同組合(当時は全国宝石商協同組合)が珊瑚とヒスイを取り入れたうえで広まることとなりました。
あれから63年。
今や誕生石は、私たちの日常に息づいています。誕生石を特別なジュエリーに取り入れたり、ブランド側も誕生月ごとにそれぞれの宝石を楽しめるバリエーションをラインナップに加えたりと、あらゆるシーンで目にすることがあるでしょう。
一方でアメリカ由来の誕生石がもとになっているとは言え業界内で規格のようなものがあるわけではなく、団体によってリストがまちまちでした。
そのため全国宝石卸商協同組合がこの度、統一の意味も込めて改定を行い、併せて10の宝石の追加を決定したのです。
なお、「統一」に加えて、さらに宝飾品市場の活性化も思惑としてあったようです。
宝飾品の市場規模は、1991年が3兆150億円であったことに対し、2020年は8,195億円となっております。とりわけ新型コロナウイルス禍の影響はリーマンショック以上とも言われており、あまり明るい状況ではありません。
全国宝石卸商協同組合では新たに誕生石を改定・追加することでユーザーの目を向けることはもちろん、いっそう多彩なジュエリー選びの一助となることを期待しての敢行だったとのことです。
3.2021年の改定で追加された誕生石一覧
2021年の改定で追加された誕生石一覧をご紹介いたします。
①クリソベリル・キャッツアイ(2月)
ギリシャ語の郷ゴン「クリソ」と緑の宝石「ベリル」を語源とするクリソベリル。後述するアレキサンドライトと同じく金緑石と称される鉱物の一つで、黄緑がかった唯一無二の美しさを放つ宝石です。
なお、クリソベリル・キャッツアイとはクリソベリルの一部に見られる「シャトヤンシー効果」を有した個体のことです。針状・繊維状のインクルージョンを含有することで、まるで猫の目のように一筋の光がクリソベリル上を走ることに。
とても稀少な個体ですが、2月、梅がほころび徐々に暖かくなっていく時期にピッタリの宝石と言えるでしょう。
②ブラッドストーン(3月)
血石や血星石、血玉髄にヘリオトロープなどの通称を持つブラッドストーン。ちなみにヘリオトロープとはギリシャ語で「太陽に向かう」を意味しており、同名の花や香水が有名です。
日本語で碧玉(へきぎょく)とも言われる鉱物「ジャスパー」の一種で、半透明の濃い緑地に赤い斑点が見受けられます。
古くからパワーストーンとして扱われており、イエス・キリストがゴルゴダの丘で貼り付けにされた際、碧玉にイエスの血が滴ったことから出来上がったなどといった伝説を持つほどです。
③アイオライト(3月)
古代、西欧から北欧の沿岸部で各地を侵略したヴァイキングらが、航海時に太陽の位置確認のために用いたと言われるアイオライト。
和名の菫青石(きんせいせき)が示すようにすみれ色をも示しますが、多色性を有しているため、見る角度によっては青が強くなったり紫になったり、個体によっては黄色みを帯びたりすることがあります。ちなみにアイオライトの語源もまた、ギリシャ語ですみれを意味するionに由来します。
④モルガナイト(4月)
パステルピンクを有した、まさに4月の宝石としてふさわしいのがモルガナイトです。
エメラルドやアクアマリンなどと同じくベリル科に属しており、かつてはピンクベリルと呼ばれていたこともあります。しかしながら20世紀初頭、ティファニーの宝石博士ジョージ・フレデリック・クンツ氏が同社の上顧客であったJ.P.モルガン氏に敬意を表して、モルガナイトの名を付けました。
こちらも多色性があるため、光の加減や見る角度によって色味の変化を楽しめます。
⑤アレキサンドライト(6月)
2月の誕生石クリソベリル・キャッツアイの項でも言及しているように、金緑石に分類されるアレキサンドライト。しかしながらその稀少性にかけては宝石業界トップレベル言って良いほどで、「皇帝の宝石」「宝石の王」などの通り名をも持ち合わせます。事実、1830年にロシアのウラル地方で発見され、時のロシア皇帝ニコライ一世が皇太子のアレクサンドル二世にちなんでこの名を付けたのだとか。
光源によってきわめて強い変色性を示すことが最大の特徴で、太陽光下では緑,白熱灯下では赤紫または赤といった色合いの変化を楽しませてくれます。
なお、アレキサンドライトの中でもキャッツアイ効果を持つ個体はさらに市場価値が跳ね上がります。
⑥スフェーン(7月)
ダイヤモンドよりも激しいなどと表現するほどの、まばゆい輝きを持つスフェーンは、7月の梅雨明けの太陽を思わせます。
スフェーンはチタナイトとも呼ばれる鉱物で、ギリシャ語で「くさび」を意味するSphenos(スフェノス)に名前を由来します。これは結晶がくさび形状であるためです。
まばゆい輝きに加えて多色性をも持ち合わせており、黄緑色になったり赤色になったりと、様々な表情を見せてくれることでしょう。
⑦スピネル(8月)
サファイアなどと同じくコランダムに属するスピネル。ジュエリーのみならず腕時計の装飾やパワーストーンなどで広く普及しているため、一度は目にしたことがある方も多いでしょう。なお、化学的組成が解明される18世紀以前は、ルビーと混同されることもありました。14世紀にイギリス王朝皇太子エドワードが、スペイン王から譲り受けた王冠に搭載された170カラットものルビー「黒太子のルビー」が実はスピネルだったというエピソードはあまりにも有名です。
とはいえスピネルの色味は多種多様です。無色透明のものから濃い青のもの、赤色のものなど様々に私たちの目を楽しませてくれます。
なおスピネルは双晶と呼ばれる、一定の面を境に互いが鏡面対象のようになっている結晶を持つため、カッティングを施さないうちから美しい形状を保っています。
⑧クンツァイト(9月)
クンツァイトはリシア輝石と呼ばれるケイ酸塩鉱物の一種です。含有物によって色味を変える代表的な宝石ですが、クンツァイトはマンガンイオンを含むことで優しいピンク色を帯びています。
ちなみに名前は20世紀初頭に鉱物学者クンツ博士がアメリカ合衆国カリフォルニア州で発見したことに由来しています。
硬度はそう高くないため取扱いには注意が必要ですが、末永く愛していける宝石と言えます。
⑨タンザナイト(12月)
20世紀の三大宝石にも名を連ねるタンザナイト。正式名称はゾイサイトであり、生成過程でバナジウムを含有したことでブルーゾイサイトとなります。しかしながらティファニーが販促のために発見地タンザニアに由来して「タンザナイト」と名付けた、と言われています。ティファニーの当時の社長ヘンリー・B・プラット氏が、タンザニア北東部から望めるキリマンジャロに浮かぶ夕暮れを見て、命名を思いついたとも言われています。実にロマンチックですよね。
事実、タンザナイトの美しさは、ロマンチストの心を刺激します。モルガナイト同様に見る角度によって色味を変化させる多色性を強く示し、青や藍色に赤色、、時にはそれらの融合色で見る者を魅了します。
なお、希少価値は高くなれどもともとの色味が濃いため、トリートメントせずともそのまま天然で美しい個体が多いのも嬉しいところですね。
⑩ジルコン(12月)
まるでダイヤモンドのような輝き―ブリリアンスとファイア―を有するジルコン。和名は風信子石(ヒヤシンスせき)です。
地球で最も古い宝石とも言われており、オーストラリアで見つかった最古のジルコンの年代は推定44億歳だとか!
その美しさの一方でお手頃な価格であることから、古来よりダイヤモンドの類似品として親しまれてきました。なお、人工結晶のキュービックジルコニアとは別物で、ジルコンは宝石です。
無色透明の個体のみならず、含有物によって赤や黄、緑などの色味に変化するのも楽しいですね。
4.まとめ
2021年12月に改訂・追加された誕生石についてご紹介いたしました!
追加された宝石は全部で10。クリソベリル・キャッツアイやモルガナイト,クンツァイト等、魅力的な宝石が含まれることとなり、いっそう誕生石の楽しさを増しましたね。
全国宝石卸商協同組合の思惑通り、これが需要喚起に繋がり、引いては宝飾品業界の再びの盛り上がりに繋がってほしいものです!