「偽物」という表現は誤解を生むかもしれませんが、天然ダイヤモンドに似せて作られたイミテーションダイヤや合成ダイヤがジュエリーに使われることは珍しくありません。
本物のように美しい輝きやプロポーションを、はるかに安価に楽しめるとあって長年高い人気を誇ってきました。
本物との違いがわからない、という方は多いでしょう。
今持っているジュエリーや、これから購入を考えているマリッジリングなどに対し「偽物だったりして・・・」そんな不安を持つ方もいらっしゃいます。
そこでこの記事では、この偽物ダイヤモンドについて徹底解説いたします!
種類や特徴、そして本物との見分け方を併せてご紹介いたします。
1. イミテーションダイヤモンドとは?どんな種類がある?
イミテーションダイヤモンドとは、天然の代用品として用いられる天然石を指します。
イミテーションダイヤモンドや代用素材品を販売することに問題はありません。
天然ダイヤモンドに似た美しさや輝きを安価に楽しめるとして、ジュエリー市場でも人気の高い商品となります。
代表的なイミテーションダイヤモンドの種類をご紹介いたします。
ダイヤモンドの性質と比較してみてください。
ダイヤモンドの性質
屈折率:2.417
モース硬度:10
ファイアー(光の分散度):0.044
比重:3.52
熱伝導率:きわめて高い
① ジルコン
屈折率:1.925~1.983
モース硬度:7.5
ファイアー(光の分散度):0.039
比重:4.7
熱伝導率:非常に低い
ジルコンとは天然石の一つです。
名前の由来は諸説ありますが、アラビア語で「赤」を意味するzarkun、古代ペルシャ語で「金」を意味するzarと「色」gunの組み合わせ、と言われています。
よく産出され安価ですが、無色でダイヤモンドにひけをとらないような輝きを有することから、古代より人々に愛されてきました。
これは、ダイヤモンドと性質が似ているため。
通常の天然石は光沢の部類が「ガラス」となりますが、ダイヤモンドとジルコンは「金剛光沢」と呼ばれる、ひときわ美しい輝き方をするのです。
例えばディスパーション(石に入射した光が屈折・反射を繰り返し、虹色のような可視光を出すこと)は非常に近い性質となります。
ただし、モース硬度は7.5と硬さはダイヤモンドほどではありません。
そのため、カット面はダイヤモンドほど切り立ってはおらず、やや丸みを帯びています。
名前の由来のように、無色透明の他に青や緑、金色といった個体も産出します。
この色味がついたジルコンも大変人気が高く、人工的に色付けされたものが出回ります。
なお、青のジルコンは12月10日の誕生石として親しまれています。
② ジルコニア
屈折率:2.19
モース硬度:8-8.5
ファイアー(光の分散度):0.060
比重:5.6
熱伝導率:非常に低い
※こちらはキュービックジルコニアの数値となります
ジルコンと混同されることがありますが、別物となります。
そのままでもダイヤモンドの「金剛光沢」のように美しい輝きを放ちますが、温度変化によって結晶構造が相転移するという特性があり、放っておくと破損してしまうことがあります。
これを防ぐためにイットリウムやカルシウムなどを添加した安定化ジルコニアを人工的に生み出すことが一般的です。
そしてその合成ジルコニアで最も有名なものがキュービックジルコニアとなります。
ジルコニア由来の光沢を持ちながら非常に安価で、プチプライスのジュエリーによく使用されます。
また、モース硬度8~8.5と、サファイヤやルビーに次いで硬いこと。また、熱に強く融点が2700℃と高いことから、耐熱セラミック素材としても活躍しています。歯科医療分野ではお馴染みですね。
近年では、専門家でも本物と見分けがつかない「スーパーキュービックジルコニア」というものも存在しているように、研究開発が進む合成石です。
③ モアッサナイト
屈折率:2.648-2.691
モース硬度:9.5
ファイアー(光の分散度):0.104
比重:3.21
熱伝導率:非常に高い
モアッサナイトは炭化ケイ素でできた天然石です。
1891年にアリゾナのバリンジャー隕石孔から発見され、これの研究に功績を残したフランス人科学者アンリ・モアッサン氏から名づけられました。
モース硬度9.5と、天然ダイヤモンドに次ぐ強度から産業用途として注目されますが、天然で産出されることはほとんどなく、隕石中に含まれたものを採掘することとなります。
そのため稀少価値が高く、市場に出回り始めた頃はダイヤモンドとあまり変わらない金額でした。
そこで人工的な合成での製造技術が開発され、大量生産が可能となります。
1948年には天然ダイヤモンドを凌ぐ光の屈折率が発見され、ジュエリー用途としても普及していくこととなりました。
硬度や屈折率のみならず、熱伝導率も天然ダイヤモンドの性質に似ていることから専門業者でも真贋の見極めが難しいと言われています。
と言うのも、かつてのダイヤモンドテスターは熱伝導率での判定に拠るところが大きかったためです。
現在の最新テスターは判別が可能となりますが、輝きやカット面など、見た目だけで判断することは個人には難しいでしょう。
④ ホワイトサファイヤ
屈折率:1.761-1.770
モース硬度:9
ファイアー(光の分散度):0.011
比重:4
熱伝導率:低い
ホワイトサファイヤは天然石のサファイヤのうちの一つで、ピンクや青などに色づかなかったカラーレスの個体です。
サファイヤとしては大きな価値はありませんが、ダイヤモンドの模造品として人工合成したものが一般に用いられます。
なお、代替品としてのみならず、「サファイヤクリスタルガラス」として近年腕時計などに用いられています。
⑤ その他人工石
キュービックジルコニアの出現により、現在はあまり市場に出回っていませんが、他の人工による偽物ダイヤモンドとしては、ルチル,GGG(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット),YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット),ホワイトスピネルなどがあります。
いずれも硬度または屈折率など性質の面でダイヤモンドとかなり異なり、見分けは比較的容易とされています。
2. 合成ダイヤモンドの現在
キュービックジルコニアや合成モアッサナイトも人工物ですが、「合成ダイヤモンド」はそれらとは性質が大きく異なります。
なぜなら、ダイヤモンド同様に炭素を成分にしており、ダイヤモンドが地中で作られる過程を人工的に再現したものなのです。
つまり、「偽物」ではなく天然でないだけでダイヤモンドそのものと言っていいかもしれません。
原理は以下の通りです。
通常天然のダイヤモンドはマグマの近くで生成されます。その性質を利用し、炭素を高温高圧環境下に置くことによってその過程を再現。約1~2週間でラボの中でダイヤモンドが出来上がる、ということになります。これは1つの合成方法で今日では様々な合成方法が生み出されています。
今から60年以上も前にアメリカのゼネラル・エレクトリック社が合成ダイヤモンドの市販化に成功して以来、研究開発が進められてきました。
もともとは工業用途がメインでしたが、近年の合成技術は目覚ましく進歩します。
硬度や熱伝導率が同一なことはもちろん、輝きやプロポーションなど見た目では専門家でも区別がつかないような出来栄えを獲得します。
ジュエリー業界では注目はしていましたが、かなり最近まで天然と価格が大差なく、むしろ合成品の方が割高であるとされ、普及はしないと思われていました。
しかしながら近年さらに、そして急速に製造技術が発達。これまで合成ダイヤは工業用が主流でしたが、ジュエリー用のダイヤも製造できるようになりました。今ではジュエリー用の合成ダイヤも天然ダイヤの1/5以下の価格での販売が可能となっています。
今後ますます製造コストを下げることに成功すれば、より安価にダイヤモンドジュエリーを手に入れることも夢ではないでしょう。
この合成ダイヤモンドの技術向上は、消費者に安価でダイヤモンドを提供できるようになる反面、既存生産者の不安の種となります「天然品の市場に合成ダイヤが紛れ込み、相場下落を招くのではないか」というものです。
しかしながら、今のところ大きな相場変動が起きておりません。天然は天然、合成は合成と住み分けされているようです。
当初、合成ダイヤモンドの分野なんて伸びることはないだろうと思っていたダイヤモンド大手も取り扱いを始めています。
最も有名なのはダイヤモンド最大手のデビアス社が設立を発表した「ライトボックス・ジュエリー」でしょう。これは、合成ダイヤを専門に扱うジュエリーブランドとして立ち上げられ、通信販売されると言います。
また、スワロフスキーの子会社シグニティが合成ダイヤモンドの販売に着手したことも最近のニュースで驚いた方がいらっしゃるかもしれません。
さらに、ヴァンクリーフ&アーペルやショーメなどグランサンクの本拠であるパリのヴァンドーム広場にも合成ダイヤモンド専門店が開設されました。
ますます広がりつつある合成ダイヤモンド市場ですが、変わらない輝きを持ち、価格が安い合成ダイヤモンドが主流となるときが来るかもしれません。
またダイヤモンド市場の世界勢力図を変えてしまうかもしれません。
3. お家でできるイミテーションダイヤモンドの見分け方
代表的なイミテーションダイヤをご紹介しましたが、性質に差はあれど、見た目ではほとんど天然との違いはわかりません。
しかしながら今持っているダイヤモンドを自宅で判別したい!そんな方のために、手軽にできる見分け方を解説いたします。
ルーペ(拡大鏡)をご用意いただくとスムーズです。
なお、イミテーションダイヤの種類によって適した見分け方は異なります。
また、天然ダイヤモンド自体が自然由来のもののため個体差があり、必ずしも以下の手法で厳密に区別できる、というわけではありません。
あくまで目安としてお使いいただき、どうしても真贋を見極めたい方はGIAなどの鑑定機関に鑑定依頼をしましょう。
また、ダイヤモンドの硬度は高いため傷の心配は少ないですが、ジルコンなど偽物の中には硬度の低い個体もあります。
傷や破損に繋がらないよう、扱い方には気をつけてください。
見分け方①息をふきかける
ダイヤモンドは熱伝導率の高さを性質として持ちます。
そのため息をふきかけてもすぐに放熱し、曇ることがありません。
また、この熱の伝わりの良さによって、常にひんやりした感じがすることも特徴です。
ジルコン,キュービックジルコニアなどは曇りが維持されます。
見分け方②ルーペでカット面を見る
天然ダイヤモンドのカット面(ファセット)が美しくスタイリッシュなのは硬度が関係しています。
ダイヤモンドでなくてもキレイにカットされた石はありますが、どれもカット面やエッジはやや丸みを帯びているように見えます。
ルーペでのぞいて確認してみましょう。
なお、モアッサナイトやホワイトサファイヤなど硬度の高い石だとカット面での識別が難しい場合があります。
見分け方③ルビーやサファイヤとすり合わせてみる
こちらも硬度が関係してきますが、ダイヤモンドと別の石をすり合わせた時、天然ダイヤモンドであれば絶対に傷はつきません。
モース硬度が9のルビーやサファイヤなどの方に傷がつきます。
これはモース硬度9より下の偽物を見分ける時に役立つので非常に有効ですが、一方でルビーやサファイヤの方に傷がついてしまい、ジュエリーとして見た目が悪くなってしまいます。
安価に売っている合成ルビーなどを使用するようにしてください。
見分け方④油性ペンをあててみる
ダイヤモンドは親油性(油になじみやすいこと)が高いことで有名です。
皮脂汚れをそのままにしておくと輝きが濁ってしまうため、お手入れが欠かせないということはダイヤモンドをお持ちの方ならご存知でしょう。
そのため油性ペンを当ててみると色をつけることが可能です。
一方他の石であれば、油をはじいて色がうつることがありません。
見分け方⑤水を垂らす
ダイヤモンドは疎水性と言う、水をはじく性質を持ちます。
そのため、ダイヤモンドに水を一滴垂らしてみてください。
ダイヤモンドであれば水がはじかれ丸くなります。
その他の石だと、水が広がって伝っていくでしょう。
見分け方⑥線を透かして見る
ルース(裸石)をお持ちであれば、紙にペンで一本線を引き、石で透かして見てみましょう。
ダイヤモンドは屈折率が非常に高いため、内部で入り込んだ光が屈折・反射を繰り返します。ダイヤモンド越しに何かを視認することは難しくなります。
もしラインが見えたら、それはダイヤモンドでない可能性が高いです。
ルースであってもかなり小さいと思うので、ルーペを使いましょう。
見分け方⑦ブラックライトテスト
ダイヤモンドの性質のうち、蛍光性(フローレッセンス)というものがあります。
これは、太陽など紫外線を含む光に当てた時に蛍光を発する作用です。
この蛍光性はブラックライトに反応します。ブラックライトに当てると青く光るのです。
蛍光性を持つ石は少ないため、青くなればほぼ本物のダイヤモンドと言えます。
合成ダイヤモンドであっても、この蛍光性は再現できていません。
一方で蛍光性があるダイヤモンドはグレードが低い、という考え方もあり、蛍光性の少ないものだけを売るメーカーも存在します。
ラグジュアリーブランドで購入したものやグレードの高いダイヤモンドはブラックライトに当てても青くは光らないこともあります。
4. 合成ダイヤモンドと天然ダイヤの見分け方
上記の見分け方は、最後にご紹介したブラックライトテスト以外はキュービックジルコニアやモアッサナイトなど、ダイヤモンドの模造品が対象となります。
では、天然と成分的な違いのない合成ダイヤモンドはどのように見分けるべきなのでしょうか。
一つには、ブラックライトテストを行う、というものがあります。
しかしながら、その他の性質は天然と大きな違いがあるものは少なく、また天然であっても石によってバラつきがあることを考慮すると、明確な見分け方であるとは言えません。
専門業者であれば合成ダイヤモンドテスターを所持していることがあります。
旧式のものは精度が低いと言われていましたが、精巧な合成ダイヤモンドを見極めるためにテスターの研究開発も目覚ましく、今では窒素濃度などからほぼ正確に判断してくれます。
また、合成ダイヤモンドか天然かの見極めは、「鑑定書」が大きく影響します。
現在、合成ダイヤモンドの鑑定を行うところはGIAなど一部のダイヤモンド鑑定機関に限られています。
合成であってもグレードなどが査定され明記されますが、天然とは明確に区別しており、書類の形式なども異なります。
これから天然ダイヤモンドを購入しようと思う方は「鑑定書」を必ず付けてもらいましょう。
きちんとしたメーカーであれば、付属品として購入品に付けています。
鑑定書の必要性は何も合成ダイヤモンドを購入するリスクヘッジに留まりません。
例えば今お使いのダイヤモンドジュエリーを売却しようと思って買取店に持ち込んだ時、鑑定書がないと、買取店によっては「鑑定代」などを査定額から差し引く可能性があるためです。
今後、精緻な合成ダイヤモンドが市場に溢れ返れば、そういった買取業者が増える可能性があります。
ダイヤモンドの取り扱いに慣れておらず、鑑定眼に自信がないところは、天然であっても不当に低い査定額を提示することも少なくありません。
こういった事態を防ぐためにも、鑑定書を付けてもらいましょう。
一方で、「既にダイヤモンドを所有しているが鑑定書がない」「鑑定書をなくしてしまった」と言う方は、熟練した鑑定士が在籍する買取店をご選択ください。
当店では鑑定書のないダイヤモンドにも自信を持って査定に臨ませていただきますので、ご安心ください。
5. まとめ
イミテーションダイヤと合成ダイヤについてご紹介いたしました。
イミテーションダイヤモンドはジルコン,ジルコニアなど多彩な種類があります。また、近年の合成技術の発達は目覚ましく、スーパーキュービックジルコニアや合成ダイヤモンドなど、天然との見分け方がプロでも難しいものが市場に出回っているため、購入時や売却時に、「これ、本当のダイヤモンド?」と心配になる方もいらっしゃるでしょう。
そんな時は今回ご紹介した簡易的な見分け方をご利用ください。ただし、精密な分類に関しては、専門機関に任せるのが一番でしょう。
もちろん信頼できる買取店で鑑定士に判断してもらうこともお勧めです。