宝石の女王・ルビー。その美しさや古代から続く価値を解説。
世界中で抜群の知名度を誇り、古くはその色味が血液や炎を象徴するとして、勇敢さを与える・あるいは病気やケガを治すなどと信じられてきました。確かにルビーの妖艶な真紅を眺めていると、心の奥底から活気が湧き上がってくるものです。
ただ、ルビーはこれだけ有名で歴史があるにもかかわらず供給量は少なく、むしろ年々高まるニーズに追いついていません。結果としてルビーの価値は今なお高まっており、数ある宝飾品の中でも特別な存在と言えるでしょう。
そんなルビーとは、いったいどのような特性を持つのでしょうか。現在の価値・相場はいくらくらいなのでしょうか。
この記事では、ルビーについて徹底解説いたします。
1.ルビーとは?
① DATA
鉱物名:コランダム
和名:鋼玉(ごうぎょく)
色:赤
モース硬度:9
劈開:なし
結晶系:六方晶系
原産国:ミャンマー、タイ、ベトナム、カンボジア、スリランカ、タンザニア、ケニアなど
宝石言葉:情熱、勇気、慈しみ、威厳、集中力など
② 歴史
ルビーの歴史は古く、青銅器時代から続きます。
名称の語源はラテン語のルベウス(rubeusu)にちなみ、これは「赤」という意味です。しかしながらこの名称が使われ始めたのは中世以降。古代ギリシャやローマではアンスラックス(燃える石炭)やカルブンクルス(小さな炭火)などと呼ばれていました。
また、古代インドでは、ラトナラジュ(宝石の王)と称されるなど、世界各地で愛されていたことがわかりますね。
実際、ダイヤモンドのカッティングが研究され、ブリリアントカットが確立するまでは、ルビーこそが宝石の王でした。
また、ルビーの持つ赤色は、人々にとって特別な意味を持ったようです。
ヨーロッパでは、ルビーは血や炎、情熱を象徴すると考えられました。そのため、人々に勇気と威厳を与えてくれる石として扱われており、とりわけ兵士たちの間では重宝された記録があります。と言うのも、身に着けることでローマ神話における軍神マルス(マーズ)の加護を受け、勇敢な心で以て戦に臨み、かつ戦禍に合わない効力がある、と信じられていたのです。
さらに、ルビーは太陽光で退色しやすい特性を持ちますが、この退色は不幸の前兆とされていました。
16世紀、イングランド国王ヘンリー8世の王妃キャサリン・オブ・アラゴンは、世継ぎに恵まれなかったことから夫の心が離れ、離縁に至ります。その時所持していたルビーのリングが、離婚前に色褪せていたと言うのです。
ヨーロッパ以外に目を向けてみても、その逸話は多彩です。
アラビアやペルシアを中心に、ルビーは生命の象徴でした。血の色みに似ていることからそのように考えられたのでしょう。
赤いルビーを身に着けていると病気を癒したり、生命力を活発にしたりしてくれるお守りとして、人々は大切にしていました。
しかしながら実は古代はまだルビーがどういった化学的特性を持つ宝石かはわかっておらず、赤い石はとりあえずルビーとされていたきらいがあります。例えばガーネットやトルマリン、レッドスピネルなどがルビーに分類されていました。
18世紀頃から化学的な組成が解明していくと、ようやく前述した別の宝石群とルビーは切り離され、独立します。ただ、スピネルとの見分けは最も難しかったようで、1783年にようやく別物と判明されました。
ちなみにこの区別が行われると、これまで「伝説の大きいルビー」が、実はスピネルだった、といった事態がそこここで発生します。例えば14世紀のイギリス王朝皇太子エドワードが、スペイン王から譲り受けた王冠。170カラットにもおよぶ大振りのルビーがセッティングされ、黒太子のルビー(ブラック・プリンス・ルビー)と呼ばれていました。この名称はエドワードが黒い甲冑を愛用していたことに由来しますが、実はこれはスピネルだったのです。しかしながら歴史的に意義ある宝物であることに変わりはなく、今なおロンドン塔で保管・陳列されています。
ただ、こういった事例が重なり、いつしかスピネルが「フェイク」と言ったイメージが付いてしまった感は否めません。
③ 産地
これだけ歴史も深いルビーですが、今なお稀少性が高く、価値が落ちづらい宝石として君臨しています。
それは、産地が限られていること。特にアジア圏に集中しており、南米やヨーロッパなどではあまり見られません。加えて上質なルビーの産出はきわめて少なく、3カラットを超えるような大振りのものはなかなか採れない、という実情があるためです。
原産地として最も有名なのはミャンマー(旧ビルマ)です。
ミャンマー産のルビーは赤が濃く、また透明度の高いハイグレードな個体が産出することもあり、ルビーの名産地として最高峰です。また、ミャンマー産のルビーは含有されるクロムの影響により紫外線に当てると蛍光を発する、という特性があります。
また、詳細は後述しますが、最も価値のあるルビーに「ピジョンブラッド」と呼ばれるものがありますが、本当のピジョンブラッド(色・無処理・蛍光性を満たしているもの)が採れるのはミャンマー北部にあるモゴック鉱山だけと言われています。
現在では産出が殆ど無い状況といわれていますので、ミャンマー産の上質なルビーの価値は年々高まっています。
そんなミャンマーで採れたルビーを加工していたのがタイですが、そのタイでもルビーが産出されます。
比較的上質な個体も多く、1960年のビルマ政変や1997年から約20年続いたアメリカのミャンマーへの経済制裁でミャンマー産ルビーが市場から減少した時、タイ産を人々は求めるようになりました。タイは長らくルビーの加工を手掛けていたことからエンハンスメントなどの技術力を有していたことも無関係ではないでしょう。現在では、タイはルビー産地として欠かせない存在です。しかしミャンマー産とは異なり鉄分が多い為、蛍光性のあるルビーは殆どありません。
他ではスリランカやベトナムでも産出されます。鮮やかで透明度の高い個体が多く、ピンクに近いものもよく見つかるため、それらはピンクサファイヤに分類されることもしばしばです。
年々宝飾品需要が高まる中、さらに豊富なルビー鉱山の発見が急がれています。
2. ルビーの特性
ルビーはコランダムという鉱物です。化学的には酸化アルミニウムで、玄武岩や片麻岩、接触変成岩、花崗岩ペグマタイト、熱水変質岩、大理石などから生成されます。
純粋なコランダムは無色ですが、その成分にクロムが入ると赤色を帯びます。
これがルビーの正体です。クロムが多いと赤が濃く、少ないとピンク色になってしまいます。
とは言えクロムの含有率はきわめて少なく、1%以下。そのため実は赤が美しいルビーが出来上がる確率というのは低く、とても稀有な存在なのです。クロムが多すぎて黒っぽくなってしまった個体は宝石としての価値は落ち、工業用研磨剤などで用いられることとなります。
なお、赤以外のコランダムはサファイアと呼ばれます。鉄とチタンが混入するとサファイアになります。赤ははっきりした赤が基準で、ピンクだとピンクサファイヤとして扱われることが一般的です。ちなみにオレンジ系のものをパパラチャと呼ぶこともあります。
こういった色味は産地に左右されることが多く、前述の通りミャンマー産ルビーが美しい赤を保つのは、その土壌によるところが大きいのでしょう。
ダイヤモンドに次いで高い高度を持つことも大切な特性の一つです。
ダイヤモンドと同様にブリリアントカットやステップカット、カボションカットなど、その硬度の高さゆえ様々なカッティング技術を楽しめるのもルビーならでは。角が多くても欠けの心配がないため、エッジを作ることが可能なのです。
熱や酸にも強いですが、太陽光にさらし続けると退色してしまう可能性があるので、長時間直射日光に当てないようにしましょう。勿論、天気の良い日に長時間身に着けている程度では退色しませんのでご安心を。
また、ルビーは光源によって色味を変えます。
これは多くの色石に言えることですが、白熱灯の下ではどんなカラーも強く見えます。白熱灯からは赤外線も一緒に出ているため、赤みを強くしてしまうのです。
蛍光灯や太陽光の下で再度見てみると、その石本来の色味がわかり、日常で使っているイメージも見えてきます。
■こんなルビーに要注意!
ルビーは合成ルビーも少なくありません。
特徴としては、インクルージョンがきわめて少なく、不自然に透明度が高かったり美しかったりするのに価格が安い、といったことが挙げられます。
また、ブラックライトなどの紫外線ランプに当ててみて、蛍光反応を示して真っ赤に輝くと合成の可能性が高くなります。ミャンマー産のルビーなど天然でも蛍光反応を出すものもありますが、合成ほどはっきりはしていません。
その他にもキレイな左右対称だったり、光にかざして光の帯が見えない・あるいは帯が曲がって見えたりする場合は合成を疑います。
ただ、一般消費者が見極めることは結構大変。そのため購入の際は鑑別書を必ず付属してもらうなどの対策を取りましょう。
なお、現在市場に出回っているルビーのほとんどが加熱処理(エンハンスメント)がされています。
手法としては、高炉にいれるというシンプルな方法ですが、その温度や時間などで石が割れたり、悪い状態になってしまう事もあるので、一般の方が行えるものではありません。加熱処理を施すことでより良い色味になる事が多い為、市場のルビージュエリーの95%以上は加熱処理が施されています。
その為、逆に非加熱(ノーヒート)のルビーは大変希少で高価となります。
尚、価値を落とす別の処理としてはフラックス法加熱と呼ばれる、フラックス(融剤)でルビーを囲み加熱すると、そのフラックスがクラックや穴に浸透して透明度が向上するという手法があります。この方法の場合、天然ではない物質が残る為、一般的に価値がとても下がります。
基本的に肉眼で見て非加熱・加熱処理したルビーは判別がつきませんが、鑑別書にはその旨が記載されます。
昔は加熱処理されると耐久性が失われる、と言われていましたが、最近では技術開発が進み、ずいぶんこの弱点は克服されました。
3. 稀少価値がすごいルビーの種類
ルビーそのものも高い価値を持つ宝石ですが、その中にも極レアの稀少種が存在します。
それは、ピジョンブラッドとスタールビーです。
それぞれを解説いたします。
① ピジョンブラッド
「鳩の血」という意味を持つピジョンブラッド。ミャンマー モゴック鉱山でのみ産出する、非常に貴重なルビーです。イギリス王室が与えた称号が名前として定着しました。
現在、あらゆるルビーの中で最高級とされており、場合によってはダイヤモンドよりも高額で取引が行われる事もあります。
特徴は何よりもその赤。吸い込まれるような真紅をしています。また、透明度が高いこと、色の濃淡のバランスが良いことなども特徴ですが、これらを全て満たした個体だけがピジョンブラッドと呼ばれ、産出量の0.1%ほども採掘されないのが現状です。
なお、日本の鑑別書では一定のカラーで、かつミャンマー産のもののみをピジョンブラッドと記載しています。しかしながら海外では産地は気にされておらず、濃い赤のルビーはピジョンブラッド表記が行われています。
気になる方は、必ず産地を確認するようにしましょう。
② スタールビー
スター効果をご存知でしょうか。アステリズム効果とも呼ばれます。
これは、シルクインクルージョンと言うルチル(酸化チタン)が針状または繊維状に整列することで、ルビーに三方向の光線が現れる現象のことです。三方向に放射した光線がまるでルビー上に星を形成しているかのようであることから、スタールビーの名称がつけられました。
スター効果は他の宝石でも見られる現象ですが、ルビー・サファイヤのコランダムにはほとんど表れない稀少種です。
なお、この光線が一方向に一本入った場合はキャッツアイと呼ばれます。シャトヤンシー効果と言うものですが、これはコランダムには現れません。
スタールビーはインクルージョンによって発生するため、透明度は劣りますが、価値は高くなります。
また、平面では現れませんので、必ずカボションカットが施されます。
4. 買取相場から見るルビーの価値
最後に、当店GREEBERの買取相場から、ルビーのだいたいの価値をご紹介いたします。
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※掲載価格の前後20%程は時期や情勢で前後する可能性がございます。
ルビーは状態にもよりますが、最も質が良いと判断されると、0.5カラットであっても17,000円程で当店ではお買取りさせていただいております。また、大きい個体がなかなか産出されないため、1カラットを超えるとぐんと買取相場がアップ。1カラットで70,000円、2カラットで280,000円、5カラット以上で120万円程が相場となっています。
これは最高ランクの場合の金額ですが、更にビルマ産の非加熱であれば価格は更に高くなります。また、たとえCランク、Dランクであっても数百円~数万円の価値がつくこともあります。
もし使っていないルビーがあれば、ぜひ一度査定だけでも出してみることをお勧めいたします。
なお、ルビーの査定ポイントは以下の通りです。
■色
赤が美しいほど価値が高くなります。
ただし黒っぽくなってしまった個体は価値が下がります。
■透明度
ルビーのインクルージョンは天然の証ですが、やはりなければないほど価値が高くなります、
■大きさ
何度か言及しているように、あまり大きい原石が採掘されていない現状があるため、1カラット以上のものはそれだけで大きな価値を持ちます。
■エンハンスメント
エンハンスメントは施されていることが一般的ですが、やはり非加熱のものはそれだけ価値が上がります。
■スタールビーはスターがセンターに出ているか
スタールビーは、スターをかたどる放射状のインクルージョンがルビー中央で確認できるかどうかで相場が決まります。また、スターが左右対称に近く、光の線が長いほど評価が上がります。
また、いくらスターが確認できても、赤くなければルビーとは認められません。
■ブランドや使われている貴金属・貴石
どこのブランドの製品化か、また、ゴールドやプラチナ、ダイヤモンドなどが使われていたら、その価値も一緒に査定対象となります。
例えルビーのグレードが低くとも、他の素材と一緒に査定されたら思わぬ金額になった、というケースもあるので、とりあえず査定に出してみましょう。
5. まとめ
宝石の女王・ルビーについて解説いたしました。
ルビーは古代から装飾品やお守りとして人々の生活に関わっていたこと。今なおその存在感は大きいにもかかわらず、産地が限定的なことから稀少価値の高さが目立つこと。ダイヤモンドに次いで硬度が高く、熱や酸に強いこと。ピジョンブラッドやスタールビーなどの稀少種についてお伝えできたでしょうか。
なお、本稿でも述べたように、ルビーの需要は年々高まるばかりです。そのためもし今使っていないルビーがあったら、ぜひ一度ジュエリー専門買取店に査定に出してみませんか?状態に自信がなくとも、「意外と値段がついた!」ということもございます。まずは一度ご相談くださいませ。